前回記事 からの続きで、今回は私の勝手な日本語版の歌詞の解釈をお話します。
日本語版には、李香蘭版(訳詩:佐伯孝夫)と渡辺はま子版(訳詩:藤浦洸)があるのですが、ここでは李香蘭版のお話を中心にしていきたいと思います。
夜来香
(李香蘭版日本語歌詞が載っているサイト。音楽も聴けます。)
まず、私がこの歌を聞いて「男性の気持ちを歌った歌なのではないだろうか」と思ったきっかけとして、前回お話した「夜に来る香り」という花の名前の他に、「うぐいす」という鳥が出てくるというのがありました。
うぐいすといえば、あの春先に口笛を吹くような独特の美しいさえずり方をする鳥ですが、あのさえずりは、雄が雌に求愛するときのさえずりなのですね。なので、夜来香の花が女性の例えなのだとしたら、うぐいすとは、その女性を思って歌っている男性の例えなのではないだろうかと思ったのです。
では、この歌において、うぐいすはどういう状況なのでしょうか。
まず冒頭からうぐいすは「あわれ」であり「嘆く」状態であるようです。そして、「長き夜の泪」を唄っていて、恋の夢は既に消えているらしい。
つまり、この歌の中において、夜来香に例えられる女性はもう去ってしまった後であり、今や一人になった男性は、月夜にその女性の残り香の中、女性を思って眠れぬ長き夜を過ごし、泪ながらに唄っているという内容になるのではないでしょうか。
ということは、この歌の中において、夜来香に例えられる女性は実際に登場することはなく、最初から最後まで、うぐいすに例えられる男性の思い出の中の存在であるのかもしれません。
黎錦光 夜来香 現代中華通俗詩 詩詞世界 碇豊長の詩詞:漢詩xiandaitongsushi
(『夜来香』、原文と訳詩が載っているサイト)
さて、ここで原本である中国語の歌詞と比べてみますと、中国語版と日本語版とでは、歌詞の意味合いが大分違っているようです。
日本語版は切なく悲しげな内容になっていますが、中国語版はそんな雰囲気はなく、むしろ明るい南国調の雰囲気を漂っていて、甘美な夜の空気の中に夜来香を夢見ているような内容になっていますね。
さらに、日本語で言うところの「うぐいす」と、中国語で言うところの「夜鶯」とでは、意味合いが大きく異なるようで、「夜鶯」というのは、中国語における文学的な表現で、ナイチンゲールなどの鳥のことを指すようです。
そして、「夜来香」という花も、日本語版では「白い花」という歌詞がありますが、原詩には色を示す言葉は含まれていません。色々と調べてみたところ、どうやら中国においては、夜来香は白い花ではないらしい・・・?
ま、この辺は、私は中国には詳しくないのでよくわからないのですが、少なくとも日本語版は、原本をそのまま訳したものではないのですね。
あと、日本語には「色香」「匂い立つような色気」というふうに、色気が漂うことを香りが漂うことに例えたりしますが、その辺中国語ではどうなんでしょう?
ところで、もう一つの日本語版夜来香、渡辺はま子さん版ですが、こちらは悲壮感が漂うことのない内容で、どちらかというとこちらのほうが原本に近いのではないでしょうか。
どちらが良いかは、お好みで。
YouTube - 夜來香(Mambo Version) - 胡美芳
もう一つの日本語版夜来香。歌われているのは胡美芳さんという方です。